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【12.11.20】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.49)
バッティングセンターのような死んだ球を投げていないか
11月17日(土)の日経新聞朝刊一面に「アマゾンのキンドル、ヤマダなど販売見送り」という記事がありました。購入する際、消費者はまずリアル店で商品を確認し、実際の購入は割安のネットショップで行なうという「ショールーミング」といった購買行動があって、アマゾンの携帯端末であるキンドルはその対象となると見込んでの見送りだそうです。
私も最近、一眼レフカメラやプリンター、SDカードなどを購入しましたが、どれもヤマダ電機のような家電量販店よりもアマゾンのほうが割安だったために、アマゾンで購入した経験があります。
また、最近、マイカーの車検を行なったとき、正規ディーラーよりも、オートバックスのほうが10万円近く割安だったためにオートバックスで済ませました。理由は簡単です。10万円の価格差以上の“意味”を正規ディーラーに見いだせなかっただけのことです。
私の妻は、長年、バリ雑貨のネットショップを経営しています。「アタ製品」という伝統工芸品専門店です。つる性の植物を細かく裂いて編みこんでいく製品です。最も早くから経営しており、最もアイテム数のあるネットショップゆえ、とても繁盛しました。が、最近は売り上げが落ちています。人気の商材ゆえに競合他社が増えて、価格競争に陥っているのが大きな原因です。
モノやサービスは、どうしても価格競争に陥りがちです。今回もこの問題を考えてみたいと思います。
すべての商取引というのは、「需要を供給が満たす」ということです。
「需要」>「供給」という状態では、供給者のほうが立場は有利であり、ビジネスは楽です。
ところが、現在のような成熟社会においては、「需要」<「供給」という状況がほとんどか、もし供給不足状態のマーケットがあったとしても、すぐに供給が追いつき需要は満たされて、不等号は反対を向くでしょう。
つまり、成熟社会においては、商品やサービスはコモディティ化して安い方が選ばれてしまうのです。こういう状況においては、安くモノづくりができ、安く流通させられる大資本企業が有利です。
ではどうしたら小資本の企業が生き残れるのでしょうか。それをグリーンコアというビジネスホテルの成功事例を綴って紹介したのが拙著『巡るサービス』です。グリーンコアは、「効率性ではなく、積極的にお客さまに関わっていくスタンス」で差異を生み出し、「お客さまから選ばれる理由」「また来たいと思ってもらう理由」を創りました。これこそ、ホスピタリティ・ロジックの実践です。
ここまで考えて、はたと思い当たりました。サービス業も製造・小売業も同じなのではないか、と。
サービスとホスピタリティの最も大きな違いは、「サービスは多くの人に画一化した価値を提供するもの」であり、「ホスピタリティは、一人ひとりに違ったものをそのときその場所で提供するもの」です。
妻のネットショップが扱うアタ製品というのは、バリの民芸品です。工場では作れず、バリの田舎の人たちが軒先で日がなのんびりと編み込んでいく民芸品であり、その手作り感が味なのです。そして妻のショップも、それをずっと訴求してきたつもりでした。
ところが、いつのころからか、繁盛し出して忙しくなってくると、一つひとつの製品に思いを込めず、より早くよりたくさんの生産を職人さんに強い、大量にできた製品をたくさんの人に売りさばく。まるで工業製品のように機械的に売るようになってしまいました。
その瞬間、「ホスピタリティ」ではなく「サービス」になってしまったのではないか、と気付きました。つまり、バッティングセンターでマシンが淡々と投げ続ける球のように、伝統工芸品を投げ続けてしまったのではないかと。そこには、心も通っていなければ、魂も込めていません。
一つひとつの製品・商品に魂を込め、生きたものにするのはヒトです。人の心です。「あなたから買いたい」「あなたのお客さんになりたい」と思わせることができなければ、コモディティ化の罠は抜けられません。経済活動というのは人と人のコミュニケーションなのです。コミュニケーションこそが、「家電だったら○○さんから買う」「バリ雑貨は、この店と決めている」「東京のホテルは○○さんがいるこのホテル」というつながり、選ぶ理由になるのです。機械的になった時点でコモディティ化するのです。
自問自答してみませんか。あなたの日々のサービス、接客、バッティングセンターの死んだ球のようになっていないだろうか、と。