【宿屋大学】雑学ノート「フライデーナイト・シンドローム」

ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.47)

       NHKの連ドラ「純と愛」

 前例のないことは、例え、できることであっても、しない。
 特例なことは、前例をつくってしまうから、できることでもしない。
 こういう判断を「前例主義」と言います。

 旧態依然としたホテル、大企業病にかかってしまっているホテルにも、この「前例主義」を垣間見ることができます。
 例えば、ルームサービスのオーダーストップが夜中の12時という決まりのホテルで、12時5分過ぎに「コーヒーを持ってきてほしいのだけれど」というオーダーに対し、余裕で対応できるにもかかわらず、「すいません、お客さま、ルームサービスは12時まででございます」と言って断ってしまうケース。
 また、日曜日の夜のバータイムで、その時間は提供していないメニュー(例えば、ランチタイムで提供しているカレーライスとか)のリクエストを、十分提供可能にもかかわらず断ってしまうケース。理由は、「金曜日の夜などの、忙しい時間に同じリクエストをされても対応できない」ためです。
 こうした「前例主義」を「フライデーナイト・シンドローム」と呼びたいと思います。
 
 なぜ、できることにもかかわらず、やろうとしないのでしょうか。
 理由は、お客さまから「前はやってくれたのに、なんで今はやってくれないのか」とか、「前回対応してくれたAさんはやってくれたのに、なんで君はやってくれないのか」というクレームが恐いからです。
 また、「ホテルのサービスは均一化しなければならない」という固定観念に呪われているからです。
 ここ、考えてみましょう。
 本当に、ホテルがお客さまに提供する価値というのは均一化しなければならないのでしょうか。ムラあってはいけないのでしょうか。
 私は、不均衡やムラであっても、いいと思っています。
 そこで回避するクレームというリスクの大きさよりも、できることをしなかった機会損失の大きさのほうがよほど大きいと思っています。
 私の持論ですが、ビジネスとは「価値創造・価値提供の対価としてお金を受け取る行為」です。ですから、価値提供できるチャンスに、価値提供しないということは機会損出の何物でもないのです。お客さまに喜んでいただくチャンスや、いただく料金(ここでのカレーライスの金額なんてのは、たかが知れていますが、その先に待っている、ファンになってリピートし、口コミして新しいお客さんを連れて来てくれる価値や金額は測りしれません)をみすみす逃している行為にほかなりません。
 たしかに、わがままなお客さまも、いらっしゃいます。
 クレームを回避する方法としては、特別なこと、例外的なことをする際に、「今回は特別ですよ」と、恩着せがましくなく、言葉を添えることです。
 それに、ホスピタリティを感じてくれたお客さまは、わがままを言わなくなるものです。なぜなら、ホスピタリティの関係というのは「対等の関係」になれるからです。サービスの関係のままだと、いつまでたっても上下関係ですから、わがままを言われます。
 もっと言ってしまうと、わがままを言われるのは、まだまだホテルパーソンとして甘いです。わがままを言い続けるお客さまが、わがままを言わなくなり、逆にねぎらいの言葉などを言ってくれるようになるまで、頑張ることが必要なのです。そうなったら、そのお客さまは、あなたの生涯顧客になるでしょう。そして、接客業、サービス産業というのは、この「生涯顧客」をどれだけたくさん持つかがポイントなのです。
 さらに言うと、こういうイレギュラー、特例に応えていくことが、サービスの引き出しや、自分のキャパシティの幅を広げることにつながるのです。経営者やマネジャーは、イレギュラーにどんどん対応することを応援し、サービスマンのサービスの引き出しを増やし、キャパシティの幅を広げることを競わせるくらいの指導をすべきです。

 ホテルにはルールや、マニュアルがあります。そして、そうしたほとんどのホテルが「お客さま第一主義」という理念を掲げています。しかし、この「マニュアル重視主義」と「お客さま第一主義」というのは、正反対のスタンスなのです。

 このブログをお読みのホテルは、みなさん「お客さんは一回だけ来てくれればいい。リピートしなくてもうちはいくらでも後からたらしいお客さんがくるから・・・」というスタンスのホテル、感動を提供することを諦めてしまったホテルではないと思います。

 ですので、切にお伝えしたいのですが、そろそろ前例主義、やめませんか。

追伸 冒頭に挙げた「12時5分過ぎのルームサービスのオーダーの話」は、現在放映されているNHKの連ドラ「純と愛」に出てくるエピソードです。夏菜ふんする主人公の新米ホテルウーマン「狩野純」が、独断でコーヒーを運んでしまって、後で、宿泊部長と料飲部長に怒鳴られます。ドラマなので、デフォルメがありますが、ホテルの現場で起こっているり現実そのものかと思います。下記、urlの9分40秒あたりから視聴してみてください。

http://dai.ly/RsKJEM

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