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【11.08.30】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.18)
負の連鎖を断ち切ろう
宿屋大学の受講生は、学生さんから70代の方まで幅広いのですが、20代後半から30代がコアになっています(そして8割がたポケットマネーで受講料をお支払いになります)。
つまり、ミドルの方とそのすぐ下の方が大半です。そして、みなさん真剣に自分の人生やホテルビジネスと向き合っています。前職のとき、出版業界セミナーなどにはちっとも行かなかった私からすると、意識の高さに驚きます(私は出版業界人というよりはずっとホテル業界人だという認識がありますが・・・)。
宿屋塾(平日夜に開催する講演会)では、高名なホテル経営者やコンサルタント氏などが毎回、示唆に富む講演をしてくれます。講演の後、良く耳にする感想があります。「上司に聞かせたい」「経営者の方、オーナーの方にもっと参加してほしい」という意見です。
バブル時代にホテルの第一線で活躍した経験をお持ちの方は、その時代の成功体験を引きずり、その、いわば日本のホテル業界の全盛時代、黙っていてもお客さまが押し寄せてきた時代の感覚でいまでも仕事をしようとさてたり、その価値観ややり方を部下にも伝えようされます。右肩上がりの好景気時代と、いまのような低成長期、ホテルの過当競争時代においては、ビジネスの手法やアプローチがまったく違うにもかかわらずです。
その中にはもちろん、日本のホテル業界が大事にすべき価値観や、後世に伝えたいスタンス、世界に広めたいホスピタリティマインドなどがあるかと思いますが、「負の遺産」もたくさんあるように思うのです。
それは、これまで綴ってきましたが、「お客さまのいうことはすべて正しいという顧客満足至上主義」であり、業界全体の思考停止状態をもたらす「部下は黙って言われたことをやればいいという指示」であり、「顧客満足を追求すれば利益は後からついてくるという思いこみ」であり、「責任と権限の不明確さ」であり、「叱ることばかりで褒めようとしない、厳しいだけで愛情のない上下関係」であり、「ホテルスタッフを駒としか考えず、育てようとしないオーナーの意識」であり、「ビジョンや方向性の不明確さ」です。
で、今回お伝えしたいのは、こういうさまざまな課題ではなく、「これらの負の遺産を継承してしまっているのではないか」という危惧です。「いつまでたっても変らないのではないか」という不安です。
私は、数年前まで、黙っていてもホテルは儲かったバブル時代、顧客満足至上主義、経営ではなく運営至上主義で通っていた時代を経験した先輩方がリタイアすれば、ホテル業界に横行する負の遺産はなくなり、CS・ES・利益をバランスさせる健全なマネジメントができる業界に変るのではないかと思っていました。
ところが、ホテルの現場を見るとどうか。ビジョンを示しながら、CSを維持しつつ、きちんと予算を達成させようとするマネジャー、愛情を持ちつつ部下を厳しく育成するホテリエが出てきている半面、自分が末端のスタッフだったころにされた「理不尽な仕打ち」や、「精神鍛錬という名のもとに行なわれる過剰なしごき」を繰り返す人も、残念ながら目にするのです。
私が見聞きした特にひどいものでは、「レストラン営業終了後、夜中の12時を過ぎてからのお疲れで、女子スタッフがマネジャーの肩をもむ」とか、「朝食ブッフェの準備はすべて新米スタッフがし、おまけに冬には先輩のためにトイレの便座を暖めておくために一時間座らされる」などのセクハラやパワハラの事例があります。
こうした、「ホテル業界に残したくない負の遺産」を断ち切るには、いま第一線で働くホテリエの皆さまの「自分がされて嫌だったことは部下や後輩にしない」という意識が必要です。
「負の遺産」を排除し、環境の変化に柔軟に対応していけるホテル業界であってほしいものです。