【11.04.12】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.8)

ホテルの本当の価値とはなにか

ホテルマンのホスピタリティは、異国では特に心に沁みる(All Seasons Resort Legian)

ホテルマンのホスピタリティは、異国では特に心に沁みる(All Seasons Resort Legian)



 先日、巨大地震の10日後のスマイルホテル仙台国分町を取材しましたが、「本当のホスピタリティとはなにか」を考えさせられるエピソードがありましたので、お伝えしたいと思います。下記は、同ホテルで被災したお客さま(30代男性)のレポートです(一部省略、同ホテルのレポートはホテレス4月15日号をご覧ください)。
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 僕がホテルに戻ったのは地あ震が起きてから1時間がたつころでした。ホテルは真っ暗でした。部屋は9階でしたが、スタッフが一緒に行ってくれました。部屋は、天井から水が滴り落ち、壁も崩れていました。余震もまだ続いています。私が不安を抱いていることを察知してか、スタッフの方は、「このホテルは耐震構造だから大丈夫です」と声をかけてくれました。何人かの宿泊客と1階の出入り口に近いところに避難していたのですが、夜になって寒くなると、女性スタッフがやってきて毛布を貸してくれました。その後、いったん3階のロビーに戻り、今夜はどうすればいいかと聞いたところ、低層階の部屋を用意してくれました。スタッフのみなさんも家族や自宅のことが気になるに違いないのに僕たち宿泊客のためにできることをやってくれようとします。「いつまで居ていいのでしょうか」と聞くと、「帰れるようになるまで、いつまででも結構です。お代も結構です」と言ってくれました。
 翌朝、ベッドメイクのスタッフが出勤して来て、部屋を片付けてくれました。これには驚きを越え、「なぜこんな対応ができるのか?!」と目を疑いました。「自宅は大丈夫ですか、こんな日までベッドメイクはけっこうですよ」と告げると、こうおっしゃいました。
「こんな時だからこそ、お客さまに快適に過ごしてもらいたいんです」
「うそでしょ〜、まじですか、ありえないでしょう??」
 私は、心の中でこう叫びました。
 僕自身も被災したのでしょうが、被災したという意識はありません。それはホテルのスタッフたちのおかげです。ライフラインが閉ざされた見知らぬ土地にもかかわらず、安心して眠りにつける場所があるというのはどれだけ心が休まるか。
 いつも僕は5ツ星ホテルに泊まります。でも、たまたま宿泊したスマイルホテルで、「ホテルの本当の価値とはなにか」を考えさせられる結果となりました。見てくれが豪華だとか、食事がおいしいとか、設備が優れているとか、そういうものではなく、ホテルの価値とは、人が困っているときに、どれだけ親身になってその人のことを考えて行動できるかという「ホスピタリティ」の心なのだと思います。
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 後日、この方は、同ホテルの復旧のために大金を寄付されました。

 私ごとですが、以前バリ島のホテルに泊まった際、5歳の息子が高熱を出したことがありました。All Seasons Resort Legianという中級ホテルです。スタッフはみな若く、少し「とっぽい」感じすらしました。息子の熱は40度以上あり、デング熱という熱帯病の可能性もあったので相当心配しました。
 夜中の11時、頭を冷やすための氷をもらうために、後片付けを面倒くさそうにやっているレストランに行き、氷が欲しいことを伝えると、案の定、物憂げな表情を見せ、私が手渡したビニール袋を黙って受け取りました。
「すいません、息子が高熱をだしてしまったので・・・」と伝えた途端でした。
 その25歳くらいのホテルマンの顔が明らかに変り、「ちょっと待ってて」と、マネジャーらしき人のところに向かいました。すぐに、大量のアイスキューブをくれて、マネジャーと一緒に「大丈夫ですか? ドクターを呼びますか?」と、とても心配してくれました。薬局で買った薬に書いてあるインドネシア語を訳してほしいと伝えると、日本語の分かるほかのスタッフを呼んできてすぐに翻訳してくれました。そしてこう言いました。「いつでもいいです。もし、何かあったらすぐに電話くださいね。契約しているドクターに連絡しますから!」。その後も、ホテルのほとんどのスタッフは私の顔を見ると、「息子は大丈夫か?」と声をかけてくれました。
 息子の高熱は、幸いにも疲れからくるものであって、数日でおさまりましたが、私は、この体験によって、「本当のホスピタリティとはなにか」を感じることができました。
 それは、人が困っているときに、どれだけその人の気持ちを感じることができるかということです。そして、その気持ちをなんとかしてやりたいと動くこと。
 私たちの業界は、ホスピタリティ業界です。しかも、ホテルはその象徴のような存在です。確かに、ホテルもビジネスですから利益を生まないといけません。でも、困っている人に親身になってあげられる「ホスピタリティの心」を忘れてしまったら、ホスピタリティ業界とは言えないと思うのです。利益の優先順位はそのあとでいいのではないでしょうか。
 働くのは、人を幸せにする行為ですよね。利益はその対価。せっかく、ホスピタリティ業界にいるのです。自分のパフォーマンスで、自分自身が商品になって幸せを演出することができ、しかも、そのリアクションがすぐに見える仕事です。出し惜しみせずに、がんがんやっていきましょう。(余談ですが、後日私は口コミサイトで、このときのエピソードと感謝の気持ちを投稿しました)

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